借金は考えない

なんか効用関数っぽいものから、所得の再配分ぽいものを導いてみる。

 

 

1. 前提

1-1. 価値関数

ネタ元

ja.wikipedia.org

 

今回は、プロスペクト理論に出てくる価値関数っぽい関数として、以下のような関数を考える。

 v(x) = \begin{cases} x^{1/2} \quad (x \geq 0 のとき)  \\ -2 (|x|)^{1/2} \quad (x \lt 0 のとき) \end{cases}

 \alpha \beta 1/2として、 \lambda 2とした式)

 

1-2. 参照点の依存性と比率

で、感応度逓減性について調べていたが、以下のパターンについてどうなっているのかが分からなかった。

(1) 初期状態で 1万円を持っている。
  ここから「1000円をもらった場合と2000円もらった場合の価値の差」と、「10万1000円もらった場合と10万2000円もらった場合の価値の差」を比較する。

(2) 「初期状態で1万円もっている人が、そこから1000円もらった場合と2000円もらったときに得られる価値の差」と「初期状態で11万円もっている人が、そこから1000円もらった場合と2000円もらったときに得られる価値の差」を比較する。

 

上の数式って、(1)の状況の説明としては適切に働くと思う*1けど、(2)の状況の場合はどう扱えばいいのだろうか*2

 

今回考えたいのは、「高収入を確保している人から、所得税を取る」・「低収入しか確保していない人へ分配を行う」という状況になるので、(2)になるはずである。

 

・・・という訳で、本当は定数部分の異なった数式を2つ用意するのが正しいんだろうなと薄々思いつつ、xとして入力する値を規格化してしまうことにする。つまり、月収なり年収なりの本人が確保したと感じる収入を M、そこからの変位を \varDelta mとするときに、

 x = \dfrac{\varDelta m} {M}

と書いてしまう。

 

したがって、低収入側の収入を M_A、高収入側の収入を M_Bとするとき、A側の価値 v_Aと、B側の価値 v_Bは、

 v_A(\small{\varDelta m}) = (\dfrac{\varDelta m}{M_A})^{1/2}

 v_B(\small{\varDelta m}) = -2(\dfrac{\varDelta m}{M_B})^{1/2}

という形になる。

 

1-3. 現金の定義域

今回は、現金1点モデルで勝負をしていくことにする。が、その際に考えなければならないことがある。

 

現金は、マイナスにならない!

 

借金は?という話ももちろんあるが、例えば「40年ローンの家を買った家庭で、月収〇〇万円の収入を確保している」という状況や、「新規事業を行うために銀行から〇〇万円融資された。売り上げは好調だ」という状況を考え出す*3と、価値関数との関係が分からなくなってくる。さらに、このパターンのどちらも、借金をしている人はある程度の現金を保持しているはずである。

・・・と言うわけで、借金を考え出すと、固定資産+流動資産の2変数でモデリングをしなければならなくなってしまいそうな予感がする。なので、今回は思い切って、

 

諦めます!

 

今回のモデルでは、現金1点突破型のモデルとする。

なので、金額は0円を下回らないものと考えてよいという話になる*4

 

以上をまとめると、

 0 \lt M_A \ll M_B

となる。

借金は考えない。

 

2. 計算

Bさんの現金のごく一部 \varDelta mをAさんに渡すという操作を考える。

このときに、価値の総和が元の状態よりも大きくなるための条件を調べたい。

元の状態は、両者とも1-1の式で原点のままであるので、和は0としてよい。

 

お金を渡すことによる変化は、

 v_A(\varDelta m) + v_B(\varDelta m) = (\dfrac{\varDelta m}{M_A})^{1/2}-2(\dfrac{\varDelta m}{M_B})^{1/2}

であるので、元の状態の価値の和( =0)と比較して大きければ良いので、

  (\dfrac{\varDelta m}{M_A})^{1/2}-2(\dfrac{\varDelta m}{M_B})^{1/2} \gt 0

  (\dfrac{\varDelta m}{M_A})^{1/2} \gt 2(\dfrac{\varDelta m}{M_B})^{1/2}

であり、二乗しても符号は変わらないので、そのまま二乗してしまう。

  \dfrac{\varDelta m}{M_A} \gt 4\dfrac{\varDelta m}{M_B}

よって、

 M_B \gt 4M_A

となる。

 

つまり、両者の現金保有量の比率がこの条件を満たしている場合、わずかに所得移転を行うことで価値の総和を高めることができる。

 

この微妙な所得移転を繰り返すことを考えると、最終的な収入 M'_A M'_Bでは、 M'_B = 4M'_A という形にたどり着くように見える。

 

という訳で、このあたりが均衡点になるんじゃないかと思いました。

 

3. まとめ

・条件にもよるが、所得再分配で全体の価値の和を大きくすることができる。

・損失回避性のほうが強いことから、均衡点では所得差が残っている。*5

 

 

 

*1:初期状態の1万円持っている状態を原点として、差を求めればよい。

*2:同じように考えると、初期状態で1万円を持っている状態を原点としたグラフと、初期状態で11万円を持っている状態を原点としたグラフの2つのグラフを準備することになるが、価値の差ってどちらも v(2000)-v(1000)となるので、同じになってしまうんじゃないだろうか。

基準が1万円でも11万円でも、なんなら5000兆円でも、1000円もらう価値が同じっていうのは変な気がする

*3:借金は審査とかを通して行われるため、多くの場合、担保となるものがあるはず。なので、借金ができるというのは、ある意味資産の裏付け等々があるということのはず。

となると、借金している状態をそのままお金が無い状態として記述するのは不適当なんじゃないかと思う(主観)。

*4:生きていくことを考えると、食費・宿代が捻出できないと非常に厳しい。そのため、今回のモデルにおいて0円というのは、生活が危機水準だということを示している。

*5:じゃあこの所得差は絶対に埋めることができないのかというと、例えば「寄付行為自体に報酬的価値がある」みたいな研究があったりする(阿部修士(2017)「意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策」講談社のpp.168-170あたり)ので、乗り越える方法はあるんじゃないかと思う。