単振り子、2段目

単振り子の2段目の解を求める。

 

参照元

www.jstage.jst.go.jp

 

 

 

1. 単振り子を摂動で解く

単振り子と言えば、調和振動の例として出てくるイメージがある。そのときは、

 \sin \theta \simeq \theta

として解いていた。ここでは、もう一歩先の、

 \sin \theta \simeq \theta - \dfrac{1}{6} \theta^3

について考える。

 

これについては、同連載の

www.jstage.jst.go.jp

を元にしている。

 

運動方程式は、

 m L \ddot{\theta} = - m g \sin \theta であるので、

 \omega_0 = \sqrt{\frac{g}{L}} とおくと、

 \ddot{\theta} = {\omega_0}^2 \sin \theta となる。

 \sin \theta を展開することを考えると、

 \ddot{\theta} \simeq {\omega_0}^2 (\theta - \dfrac{1}{6}\theta^3)

と書ける。*1

 

ここで、初期開き角として、 \theta_0(+速度 0 )を想定して、

 \theta(t) = \theta_0 x(t)

のように書くことにすると、運動方程式は、

 \ddot{x} \simeq {\omega_0}^2 (x - \dfrac{1}{6} {\theta_0}^2 x^3) \quad (1)

と変形できる。

 

 \sinの第2項までの近似なので、(第1項のみを用いて近似したときほどではないが)それでも初期開き角 \theta_0 は十分小さい
・・・という問題設定のはずである。

なので、 {\theta_0}^2 で摂動展開ができるはずである。ということで、解 x(t) を、

 x(t) \simeq x_0(t) + {\theta_0}^2 x_1(t) + ...

と展開し、第2項までを取り出して用いる。*2

これを(1)に放り込み、 {\theta_0}^3以上の項を見なかったことにすると、

 \ddot{x_0} + {\theta_0}^2 \ddot{x_1} = - {\omega_0}^2 (x_0 + {\theta_0}^2 x_1 - \dfrac{1}{6}(x_0 + {\theta_0}^2) x_1)^3 + ...

 (\ddot{x_0} + {\omega_0}^2 x_0) + {\theta_0}^2 (\ddot{x_1} + {\omega_0}^2 x_1 - \dfrac{1}{6} {\omega_0}^2 x_0^3) \simeq 0

で、摂動法なので、

 \ddot{x_0} + {\omega_0}^2 x_0 = 0 \quad (2)
 \ddot{x_1} + {\omega_0}^2 x_1- \dfrac{1}{6} {\omega_0}^2 x_0^3 = 0 \quad (3) 

となるはず。

 

(2)は、2つの積分定数 A_0 \Phi_0を用いて、

 x_0(t) = A_0 \cos (\omega_0 t + \Phi_0) \quad (4)

のように書ける(一旦、「初期開き角が \theta_0なので x(0) = 1だ」ということはスルーする)。なので、これを(3)に放り込んで解くと、積分定数 c_1 c_2により、

 x_1(t) = \dfrac{1}{16} {A_0}^3 \omega_0 t \sin (\omega_0 t + \Phi_0) + \dfrac{1}{32} {A_0}^3 \cos (\omega_0 t + \Phi_0)
 \quad - \dfrac{1}{192} {A_0}^3 \cos (3(\omega_0 t + \Phi_0)) + c_1 \sin (\omega_0 t) + c_2 \cos (\omega_0 t)

という形になる。*3

 

ここで、解の挙動に重要なところだけを残して、他を適当に \alphaとかにしてしまうと、

 x_1 (t) = \dfrac{1}{16} {A_0}^3 \omega_0 t \sin (\omega_0 t + \Phi_0) + \alpha \quad (5)

とできる。ちなみに、適当な定数 Tを用いて、

 x_1 (t) = \dfrac{1}{16} {A_0}^3 \omega_0 (t-T) \sin (\omega_0 t + \Phi_0) + \alpha \quad (6)

としても、 \alpha の中身を考えると、たぶん解になっている(はず)。

 

(4)と(5)より、

 x(t) \simeq A_0 \cos (\omega_0 t + \Phi_0) + \dfrac{{\theta_0}^2 }{16} {A_0}^3 \omega_0 t \sin (\omega_0 t + \Phi_0) + O({\theta_0}^2) \quad (7)

となるはずだが、この式は、第2項の t のせいで物理的にあり得ないことになってしまう(時間とともに振れ幅が大きくなっていく)。

 

これをどうにかしようというのが、テーマになる。

 

2. くりこむ

例えば、次のように考えてみる。*4

「振り子を揺らす実験をスタートしてから、しばらくの間目をつぶっておく。しばらく時間が経過してから目を開けて振り子を観察してみる」

 

このとき、振り子はどのように見えるだろうか。

目を開けた瞬間から短い時間の間は、ほぼ x(t) \simeq A \cos (\omega_0 t + B) で記述できるような運動をしているのではないだろうか。*5

 

したがって、目を開けたタイミングを \tau とすると、 \tau の近くでは、目を開けたときの振り子の振幅や速度に応じた(つまり、 \tau に依存するような)、 A(\tau) \Phi (\tau)によって、

 x(t) \simeq A(\tau) \cos (\omega_0 t + \Phi (\tau)) \quad (8)

で書けるような運動をしていたと考えられる。

 

次に、その他の時間帯も扱うために、摂動解を考慮に入れてみる。このときには、

 x_0 (t) = A(\tau) \cos (\omega_0 t + \Phi (\tau))

として、 x_1(t)については、 t = \tau のときに(8)になるようにしないといけないことから、(6)式の方をチョイスして、

 x_1(t) \simeq \dfrac{1}{16} {A(\tau)}^3 \omega_0 (t-\tau) \sin (\omega_0 t + \Phi(\tau)) + \alpha

とする。つまり、

 x(t) = A(\tau) \cos (\omega_0 t + \Phi (\tau)) + \dfrac{{\theta_0}^2}{16} {A(\tau)}^3 \omega_0 (t-\tau) \sin (\omega_0 t + \Phi(\tau)) + O({\theta_0}^2) \quad (9)

となる。

 

ということで、無限に大きくなるはずの第2項の t をくりこめそうな式に、しれっとたどり着いた。

 

 

3. くりこんだ式で方程式を作る

(9)式は、「 t=\tau に実験者が目を開けたとき」の数式だったが、実験者がいつ目を開けようが、別に振り子の運動に影響は無いはずではないだろうか。例えば、 t=\tau + \mathit{\Delta} \tau に目を開けた、つまり、

 x(t) = A(\tau+ \mathit{\Delta} \tau) \cos (\omega_0 t + \Phi (\tau+ \mathit{\Delta} \tau))

 \quad + \dfrac{{\theta_0}^2}{16} {A(\tau+ \mathit{\Delta} \tau)}^3 \omega_0 (t-(\tau+ \mathit{\Delta} \tau)) \sin (\omega_0 t + \Phi(\tau+ \mathit{\Delta} \tau)) + O({\theta_0}^2) \quad (10)

としても、物理現象としては変わらないのではないだろうか。

 

ということで、 x(t)を明示的に x(t, \tau)と書いてみる。このとき、

 x(t, \tau) = x(t, \tau+ \mathit{\Delta} \tau)

が成り立っているに違いない

・・・ということが言える。

 

参照元ではここから直にくりこみ群方程式に向かうが、一旦脇道に逸れます。*6

まぁだいたい次の式は成り立っているはず。

 f(x + \mathit{\Delta} x) \simeq f(x) + \mathit{\Delta} x \dfrac{df}{dx}

ここで、 f(x) = f(x+\mathit{\Delta} x) とすると、

 \dfrac{df}{dx} = 0

となるので、 f(x)の値に xは別に関わっていないときにはこの式が成り立つんだと思う。*7

 

・・・と言うわけで、話をもとに戻すと、物理現象の性質を考えるなら、 x(t, \tau)の値に \tauは別に関わっていないはず。なので、 x(t, \tau) = x(t, \tau+ \mathit{\Delta} \tau)を介して、

 \dfrac{\partial x}{\partial \tau} = 0

となっていると考えられる。

 

参照元にあるように、 \sin(\omega_0 t + \Phi (\tau)) \cos (\omega_0 t + \Phi (\tau))にまとめると、*8

 \dfrac{dA}{d \tau} + \dfrac{{\theta_0}^2 \omega_0}{16} A^3 (t-\tau) \dfrac{d \Phi}{d \tau} \simeq 0 \quad (11)
 -\dfrac{d \Phi}{d \tau} + \dfrac{{\theta_0}^2 \omega_0}{16} (3A \dfrac{dA}{d \tau} - A^2) \simeq 0 \quad (12)

 

(12)より \frac{d \Phi}{d \tau} は、だいたい O({\theta_0}^2) くらいの関数のはずなので、(11)にその情報を入れると、 \frac{d A}{d \tau} O({\theta_0}^4)くらいのオーダーになっていることが分かる。さすがに O({\theta_0}^4)は小さすぎるのでスルーすることにしてしまうと、積分定数 C_0により、

 A(\tau) \simeq C_0

とできる。

 

この情報を再び(12)に入れてやると、 O({\theta_0}^4)が出るような小さいヤツは無視して、

 \dfrac{d \Phi}{d \tau} \simeq - \dfrac{{\theta_0}^2 \omega_0 {C_0}^2}{16}

より、

 \Phi (\tau) \simeq - \dfrac{{\theta_0}^2 \omega_0 {C_0}^2}{16} \tau

くらいになる。*9

 

ここまで分かったことを(9)式に入れてみる。このとき、 \tau = t(常に今目を開いたような気持ちで実験を見つめる)とすると、

 x(t) \simeq C_0 \cos (t - \dfrac{{\theta_0}^2 \omega_0 {C_0}^2}{16} t)

となる。ここで初めて、初期条件として C_0 = 1を入れると、*10

 x(t) \simeq \cos (t - \dfrac{{\theta_0}^2 \omega_0}{16} t)

 

したがって、角度の時間変化は、

 \theta(t) \simeq \theta_0 \cos (t - \dfrac{{\theta_0}^2 \omega_0}{16} t)

と記述できる。

 

ということで、上手く無限大に飛んでいく項を処理して、より精度のいい摂動解を求めることができた。

 

4. 感想

なんかいつの間にか無限大が処理できていた。

*1:O記法がド下手なので、O記法で書くべきところをこのように書いたり、不適切な取り扱いをしているところがあるかもしれません。なので、原文を参照してください。

*2:たぶん本当は、 O({\theta_0}^4)とか入れとかないといけないんだと思う。

*3:ってWolfram alphaに言われた。

*4:たぶんちゃんとした記述は、

国広悌二(2010)「微分方程式の縮約と包絡線―くりこみ群法の幾何学的解釈と不変多様体の構成」日本物理学会誌、Vol.65(9)、pp. 683-690

の「2. 線形振動子における『縮約』」のような形になるんだと思います。私にはちゃんと書く力量が無いので、本文のような書き方をしています。

*5: {\theta_0}^2 が小さいという問題設定なので、 t の変化が十分小さいと見なせるような時間間隔のときには(7)の第2項も0と見なせることになるはず。ということは、その短い時間では、だいたい調和振動をしていると考えてもいいはず。

*6:自分の理解度のせい

*7:本当はちゃんと O({ \mathit{\Delta} x}^2)とかの評価をするべき

*8:ここの式がなんか参照元と形が違う・・・なんで・・・

*9:積分定数は、どうせ初期位相に飲み込まれるのでスルーします。

*10: t=0のときの開き角が \theta_0にならないといけないので、 x(0) = 1となる