初学者が、とあるシチュエーションからコンウェイとコッヘンの自由意志定理を導くというお題
初学者がやっているという点を留意してください。
1. 使用するネタ元
1-(0). 準備
北島(2018)をベースにする*1。
スピン1の系を使うらしい。
まずは、次のからを定めておく。
ベクトルの頂点を上から見ると、反時計回りに0→4→1→5→2→0の正五角形を描いているように見える。
また、
となっている。
※のときには、は一周回って0に戻ることとする()。
で、これらの射影作用素を考えると、固有値は、0 or 1 となっている。
つまり、射影作用素は、測定値0 or 1を持つと考えてよい...のか?
ここで、
に対して、実験者がランダムに0から4の数字を選んで(を決めて)、を作用させて観測する*2。
このときに、1を返す確率はいくつになるだろうか。
1-(1) 値が前もって決まっている場合
の条件から、実験者がを選択して観測値1を得たときには、とのときの値は0だったはずと予想される。
...と考えると、値が前もって決まっている場合、観測値1を返せるiは最大2つまでということになる*3。
つまり、1が返ってくる確率は、最大で
となるはず。
1-(2) 量子論の予測(+実験の結果)
固有値が 0 or 1なので、期待値を求めればよい。そのため、
(中略)
と求められる。
したがって、(1)で求めた予め値が決まっている場合よりも確率が高くなると予想される。
この「量子論では、(1)の確率の上限を突破するよ」不等式を、北島(2018)ではKCBS不等式、Ahrensら(2013)ではWrightの不等式と呼んでいる*4。
実験的には、前掲のAhrensら(2013)の論文で実証されている。
これらは、コッヘン=シュペッカーの定理の変種である(らしい)*5。
2. 自由意志定理
本編
ベースは、コンウェイ&コッヘン(2006)と同(2009)と筒井(2011)*6。
上手く量子もつれをしたシステムを作り、遠く離れた2箇所で上記の測定を行うとする。それぞれの地点に実験者AさんとBさんを配置して測定を行う。
で、Aさんのほうに飛んできた粒子をa、Bさんのほうに飛んできた粒子をbとしておく。
粒子aとbの量子もつれ状態を利用して、AさんとBさんの選択が被ったときには、両方の観測値が同じになるものとしておく*7。
さらに、AさんとBさんの間の距離を、Aさんの数字の選択をBさんが知る頃には、Bさんの実験が終わっている程度には離れているものとする。
(逆に、Bさんが何を選んだのかをAさんは実験前に知ることはできないというのも成り立っているとする)
ここで、粒子aの観測値が
・Aさんの選択()
・Bさんの選択()
・粒子aが知りうる情報()
から判定可能だと仮定する。つまり、
という関数が存在していると仮定する。
同様に、粒子bの観測値が
・Aさんの選択()
・Bさんの選択()
・粒子bが知りうる情報()
により、とできるとする。
AさんとBさんの間の情報のやり取りができないことから、はに依存しないはずである。
さらに、選択のタイミングを上手くすれば、をに依存しないようにすることが出来るはずである*8。
その中のひとつをとおくと、
のように、書くことが出来る。
についても同じように考えることによって、
・を固定できる
・には依存しない
と出来る。
AさんとBさんの選択が被ったときには観測値が同じになることから、
となる。
に関わらず、どのに対してもの値が決定できるということは、このシチュエーションでは測定前に観測値が決定できるということになる。
我々は値を知らないかもしれないが、粒子aは自分の知り得る情報から値を計算出来るのである。
しかしながら、これは1-(1)の状況になってしまうため、NGである。
このため、前提条件の何かを否定しないといけないということになる。
...と言うわけでコンウェイとコッヘンは、観測値はそれ以前の知りうる情報から決定できないと結論した。この意味(非決定性)で、この定理は自由意志定理と呼ばれる*9。
※厳密には「実験者が数字を自由に選べるならば」という前件が付くらしい
おわり
*1:北島 雄一郎(2018)「代数的量子論における文脈依存性」科学基礎論研究 Vol.45, No.1&2 pp.23~34
ただし、私はちゃんと理解していないので、正しくない記述がある場合、それは私の理解不足です
*2:※私はちゃんと理解していません
*3:あまりにも雑な理解
*4:Ahrens, J., E. Amselem, A. Cabello, and M. Bourennane (2013) “Two fundamental experimental tests of nonclassicality with qutrits,” Scientific Reports, Vol. 3, p. 2170
*5:ベルも言っていたらしいので、北島(2018)ではベル・コッヘン・シュペッカーの定理と呼んでいるっぽい
*6:Conway, John; Simon Kochen (2006). "The Free Will Theorem". Foundations of Physics. 36 (10): 1441-1473.
Conway, John; Simon Kochen (2009). "The strong free will theorem". Notices of the AMS. 56 (2): 226–232.
筒井 泉 (2011) 『量子力学の反常識と素粒子の自由意志』岩波書店
上2つはペレスの33方向を測定する方法、筒井(2011)はマーミンの魔方陣を元に議論している。じゃあ捻るならここかと思ったので、KCBS不等式を持ってきてみた。
*7:たぶんAさんが1を選んで観測値1を得たときに、Bさんが0 or 2を選んだとすると、Bさんは観測値0を得るんだと思います
*8:のときに使う情報&のときに使う情報...をまとめればに関わらず固定できるんじゃないかと思います。
*9:筒井(2011) 電子版のp.113-4あたり